せんぐう館を順序どおりに歩いていくと、もっとも奥まった位置にあるのがこの外宮正殿の原寸大模型です。見える部分は実物の東側四分の一ほどですが、材料、工法、建てた人々にいたるまで本物と変わりません。ここでは、この原寸大模型に散りばめられた匠の技術や由来をご覧ください。

SCROLL DOWN

外宮正殿原寸大模型に迫る ようこそ、神宮の最奥へ

1 正殿を支えるのは鎮守の森 Guardian forest

原寸大模型の前に立ったら、まずは正殿の床下に注目してください。小工と呼ばれる伊勢神宮の宮大工の手仕事によって、滑らかに丸く加工された柱が均等に配置されています。柱をはじめ、正殿に使用される木材はすべて檜。真っ直ぐに立つ選び抜かれたものが使われ、樹齢200年を超えるものもあります。産地の大部分は長野・岐阜の両県にまたがる木曽北方ですが、62回目となる平成25年の遷宮では700年ぶりに伊勢神宮の「宮域林」から伐り出された木材も用いることができました。

宮域林は、内宮のほとりを流れる五十鈴川の上流に位置し、約5500ヘクタールの面積を持つ広大な森です。かつては、この森で遷宮に必要な檜を全て供給していましたが、鎌倉時代後期からは良材が不足し、江戸時代は木曽から供給するようになり現在も継続しています。宮域林は、より安定的な檜の供給を目指して、大正12年(1923)から計画的に管理されており、将来の遷宮では重要な供給先として期待されています。

2 年月を耐える匠の技 Takumi's technique

柱を眺めていると、ちょうど目線の上あたりに金色にかがやく金具が目に入ります。この金物は「金銅錺金物」と呼ばれ、正殿の随所に散見できます。下地の金属は銅。日本では弥生時代から使われており、私たちの生活に必要な金属です。その銅の上に金鍍金などのメッキを施し、雨露で錆びることのないように処理されるとともに神さまの社殿にふさわしい荘厳さを生みます。金物を含めてこの原寸大の模型は、すべて本物と同じ工法・素材で出来ており、その道の職人も技術の参考に訪れます。

金物は、装飾の意味もありますが、木の切断面や木と木をつなぐ接続部分に取り付けられており、雨水や汚れが隙間から入り込み浸食の原因となるのを防ぐ、いわば保護カバーとしての役割も果たしています。正殿は、神さまがお遷りになったあとは、宮大工が修理することも許されません。金物ひとつにも幾重もの先人の知恵や工夫が込められているのは、建てた後にこそ真価が問われることを匠たちがよく理解し、神さまの社殿に不測の事態があってはならないという強い意思を感じさせます。

3 謎ばかりの玉 Mystery ball

来館者の方がまず関心を持たれるのが、高欄の上に留められた色鮮やかな玉です。正殿のみに付けられる、唯一色がつけられた飾りで、名前を居玉」と言います。色は、黄・黒・青・赤・白の5色で、並び方の順番などは謎に包まれています。確かに分かっていることは1200年前から素材が変わっていないことです。

4 開かずの御扉 Closed door

原寸大の模型を見ていると、入口がないことに気がつきませんか?本物の正殿にはもちろん入口があります。この模型は側面にあたる「妻側」のみを再現しているからです。妻側とは、簡単にいうと長方形の短辺側のこと。正殿の長辺側の中央に、入口である「御扉」が取り付けられています。

原寸大の模型では見ることのできない御扉ですが、せんぐう館には昭和28年(1953)の式年遷宮で調えられ20年間使われた実物が展示されています。受付があるエントランスロビーには、樹齢400年を超える檜の一枚板から作られた御扉と御鏁など錠前一式を展示しています。

4 屋根を支える自然の知恵 Nature's wisdom

目線を上にあげていくと、切りそろえられた萱葺屋根が視界に入ります。何層にも重ねた萱の厚さは1メートル超。もっとも厚みがある部分では、1メートル40センチにもなります。萱葺屋根には、昔から地域によって様々な植物が用いられてきましたが、伊勢神宮で使われるのはススキ。軽くて丈夫なススキは断熱効果に優れ、通気性も高い優秀な建材です。また、適度な油分を含んでいるので、撥水効果も期待でき、雨にも強い屋根になります。

すべての社殿の屋根にススキを敷き詰めるためには、約2万3000束もの数が必要になります。この大量のススキを採取するため、伊勢神宮では「萱地」と呼ばれる専用の場所を設けています。萱地の広さはおよそ100ヘクタール。これは東京ドーム21個分に相当し、採集期間である1月から3月までの間に1日100名ほどが手で刈り取ります。平成25年の遷宮では、必要な分のススキを刈り取るのに約7年の月日を要しました。

6 内宮と外宮の違いが見える千木 Different Chigi

伊勢神宮の建築様式は「神明造」。この様式を一目で判別できる場所のひとつは、屋根の上に突き出た「千木」です。神明造では千木は屋根の搏風と一体になっています。外宮に属する社殿は全て千木の先端は地面に対して垂直に切られており「外削」と呼ばれています。一方、内宮の社殿は地面に対して水平な「内削」となっています。

内宮と外宮の正殿では、千木の他にもいくつか違いが見られます。例えば、屋根の基本構造もそのひとつ。模型正面に見える大きな3本の柱、その両端の上部をご覧ください。柱の上に梁が載り、その上に桁と呼ばれる構造材が突き出しています。これは「折置組」と呼ばれる建築方法で、内宮では桁の上に梁が乗る「京呂組」で作られています。

せんぐう館には“外宮正殿の大型模型”の他にも見どころが満載。外宮に参拝される際には、ぜひお立ち寄りください。また、お時間のある方は、伊勢市内を2日かけて巡るコースもおすすめです。お一人でも、ご家族でも、神さまを感じながら四季折々の伊勢をお楽しみください。

  • 伊勢志摩 観光ナビ 伊勢志摩観光コンベンション機構公式サイト
  • らくらく伊勢もうで 伊勢地域観光交通対策協議会