FEATURE4

式年遷宮はつづく 第二回 社殿の造営

特集四

当館は神宮式年遷宮を通じ
日本人の心と技の継承を目的とする博物館です。
特集として「御装束神宝の調製」「社殿の造営」
「宮域林等の維持と育成」について、
神宮職員が専門的な立場で今回の
式年遷宮で行なわれたこと、
そしてこれからの取り組みをご紹介します。
第一回は神宮の山について営林部に
お話しをうかがいました。
第二回は社殿の造営を担当する
営繕部えいぜんぶからのお話しです。

御造営工事について

神宮では平成25年10月に内宮・外宮の両正宮と、それぞれの第一別宮である荒祭宮、多賀宮で遷御の儀が斎行され、残りの十二別宮においては、平成27年3月の風宮をもって第62回の式年遷宮が完遂しました。
社殿造営に関する御造営工事は、建物を建て替える「造替工事」と屋根板や柱など傷んだところを修繕する「修造工事」に分けられます。主に両正宮板垣内側と十四別宮の玉垣または瑞垣内側の建物は造替工事、その他の建物は修造工事になります。

御造営工事を行う神宮式年造営庁は平成17年1月に発足し、造営工事を担当する造営部には造営工事の進捗に従い人員が増加し、平成25年には、小工と呼ばれる大工が約60人、萱葺工事に従事する萱葺工が10人、その他、製材工、造材工、とび工、板金工、作業員など様々な技能を持つ職人総勢約150人、更に工事監理・監督を行う技師など9名が工事事務所にて従事しました。そのうち前回・前々回従事した3回目の方が3名、前回従事し2回目の方が約25名でした。
前々回まではほとんどが伊勢近辺の職人により構成されておりましたが、前回・今回と全国各地から御造営工事に携わりたいと希望する職人たちが集まり、今回は20人以上が従事しました。

御造営工事は大きく、木工事、萱葺工事、金物工事に分類されます。
木工事は、丸太のままの御用材の購入(現在、木曽ヒノキは国から購入しています)に始まり、墨掛(丸太を角材や板材に加工するため木口に墨で形を書き込む)、製材(墨掛をした丸太を角材や板材に加工する)、乾燥(製材品を乾燥する)、造材(木材を加工に適した寸法に整形する)、切組(材料を加工し仕上げる)、仮組(切組した材料を仮に組み合わせ確認する)、建方(現場で建物を組立てる)等の工程があります。
萱葺工事は、伊勢市近隣の神宮所有の萱山での萱の栽培に始まり、伐採採集、萱拵え(曲がった萱などを取り除く萱の選別)、萱葺(実際に萱を葺く)、萱刈り(萱を刈って仕上げる)などの工程があります。
金物工事とは、木口隠しや装飾等として使用される飾金物などの製作です。また、その他土工事や建方時の足場工事などもあり、木工事、萱葺工事は造営庁の直営工事として行われ、金物工事は外注工事として京都府や愛知県、新潟県の職人に依頼して製作されました。

技の伝承

御造営工事は社殿造営を滞りなく進める一方で、次回に向けた技術の伝承、人を育てることもその大きな目的の一つに挙げられます。社殿造営のための様々な資料や図面は長い歴史の中で整理されていますが、木材や萱は天然素材なので、気象条件などの自然環境に大きく依存し、扱いには何よりも経験や技術が重要です。また時代に合わせた新しい知恵も加えていく必要があります。
棟梁となる人物には、小工、萱葺工としての能力とともに、様々な年齢、経験、技量、各地の職人が在籍しているので、如何にまとめていくのかといった棟梁としての資質が必要となります。そのため、棟梁を筆頭に経験、技量、年齢などを踏まえ、小工は各班5人から10人程度の8班で、萱葺工は各班5人程度の2班で構成し、それぞれの班が担当の社殿を持ち造営工事にあたりました。

内宮、外宮の両正宮の造営時には、材料の選別、墨掛けなど木の性質などを吟味し、方針を決める分野は、棟梁や副棟梁により行われ、中堅、若手の小工は造材や切組などの木材加工を担当しました。その後の別宮の工事では、棟梁の指導の下、材料選別や墨掛けなども中堅、若手に手掛けさせ、一棟の建物の造営を任せるなどの取り組みを行いました。未経験のこともあり、作業の遅さなど問題点もありましたが、棟梁、周りの熟練の小工の指導の下、無事終えることができました。仕事の奥深さ、難しさを学び、次回の遷宮への糧になったことと思います。
萱葺工では前回、前々回の工事を経験された80歳を超える方が棟梁として実際の施工、若手の指導をされました。また、初めての造営工事を迎えた5人の若者が、お互いの仕事を間近に見つつ切磋琢磨し技術を磨いている姿が見受けられました。

次期神宮 式年遷宮に向けて

平成27年3月の神宮式年造営庁の解散に伴い、多くの方が民間の仕事に従事することになりました。新たな場所で出会う様々な人々に刺激を受け、次期、御造営工事に熟練の職人として従事されることを期待しています。
また、今回の御造営工事を経験した小工など26人の職人が今後10年の歳月をかけて伊勢周辺の約80棟の摂社、末社、所管社の御造営工事を行います。

同時に次期神宮式年遷宮に向け、御用材の購入、墨掛、製材、乾燥等も順次進めることになります。我々技師も進捗状況を適切に監督しながら、神宮式年遷宮の伝統を引き継ぐことに努めたいと思います。
社殿建築では、小工こだくみと呼ばれる宮大工などの匠の技に注目が集まりますが、その伝承のためには「人」を育てることが大切なのだとわかりました。